大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(刑わ)4980号 判決

被告人 山本義隆

昭和一六・一二・一二生 無職

主文

被告人を懲役二年に処する。

未決勾留日数中三〇〇日を右刑に算入する。

この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、一、昭和四四年一月一九日午前一一時四〇分ころから午後〇時近くまでの間、東京都千代田区神田駿河台所在の中央大学中庭において、当時東京大学安田講堂を封鎖占拠中の学生らを支援する目的で、いわゆる東大全共闘、中大全中闘、日大全共闘らの各大学全共闘および革マル派、中核(反戦)派、ブンド派、反帝学評派、フロント派などの反代々木系各セクトに所属ないしは同調する学生労働者ら約一、〇〇〇名が参加して東大闘争支援統一集会が開催されたが、その折、右集会参加者が集会終了後同所より同都文京区本郷所在の東京大学へ向けて東京都公安委員会の許可を受けないで集団行進、集団示威運動等を行なうことが予定されると共に、これを規制等するため警察官が出動することが当然予想されていたところから、右集会参加者のうち安保共闘および芝工大全学闘に所属ないしは同調する学生ら六〇数名において警察官らに対し、共同して角材、鉄パイプで殴打するなどの暴行を加える目的で多数の鉄パイプ、角材を携えて集結した際、被告人は、右兇器が準備されていることを知りながら右集会開始後間もなく右集会に参加し、もつて右目的で兇器の準備あることを知つて集合した。

二、右集会終了後、被告人を除く右集会参加者の大半の者(革マル派、中核派、安保共闘、芝工大全学闘などに所属ないしは同調する学生、労働者らに)おいて同所より前記東京大学へ向け東京都公安委員会の許可を受けないで集団行進、集団示威運動等を行なつた末、右集団行進等に参加していた星野光一朗、大内尚武、石口隆一郎、和田英雄、大浦泰広、大平良、南峻夫、本山貞次、高橋勉(以上は芝工大全学闘グループに所属)、安藤明与志、友松正旺、相川昭徳(以上は安保共闘グループに所属)らが右二グループに属する者らと集団を組んで、同日午後〇時三〇分すぎころ、同都文京区本郷三丁目五番五号付近路上(通称本郷二丁目交差点)において、右の者らの違法行為の制止検挙等の任務に従事中の多数の警視庁所属の警察官らに対し、所携の角材で殴つたり突いたりあるいは石塊、コンクリート塊などを投げつける等の暴行を加えたが、被告人は、前記東大闘争支援統一集会において、警察官らに対する暴行の決意を固めている右の者らを含む前記統一集会参加者に対し、東大全共闘を代表して、同所のバルコニー上よりマイクで、東大闘争の意義を訴えたうえ、安田講堂を占拠し、これを排除しようとする警察官に対し抵抗している学生らを支援して、国家権力の介入に対し断固闘わなければならない旨を激越な調子で演説し、よつて右の者らの前記統一集会終了後同所より東京大学へ向けて行なわれる予定の無許可集団行進等を規制等するため出動が予想される警察官らに対する暴行の決意を強めさせ、もつて右の者らが右警察官の前記のような職務の執行を妨害するのを容易ならしめた。

第二、同四五年九月以降被告人は、東京大学(学長加藤一郎)における「石川君と連帯する全学闘争委員会」(略称全闘委)に参加し、同大学におけるいわゆる臨職問題(同大学における定員外職員の定員化、その待遇改善等)に関し、東大当局に対し臨時職員の定員化等を強く要求していたものであるが、他方、同大学においては、昭和四六年度入学試験を行なうに際し、入試業務を円滑に実施するため、同年三月三日、八日および九日の試験当日は同都文京区本郷七丁目三番一号所在のいわゆる「本郷構内」への受験生および同大学の発行する特別入構許可証(試験関係事務に従事する同大学教職員および所属部局長の特別の許可を得た者に対し発行されるもの)所持者以外の者の立入を一切禁止することとし、同月七日には同構内出入口のうち正門および竜岡門以外の出入口はすべて閉鎖されたところ、被告人は、右大学の入構制限は、臨職闘争に対する弾圧であるとしてそれに抗議するため、藤田昭雄外一〇数名の者と共謀のうえ、同月九日午前八時三〇分ころ、同区弥生町一丁目一番一号所在のいわゆる農学部構内所在の応用微生物研究所前から同構内より本郷構内に通ずる跨道橋へデモ隊列で至り、同所に設置してある立入禁止柵の扉部分に補修のため針金でしばり固定されてあつた古机を押し破つたうえ、同所より本郷構内に立ち入り、更に笛につれて「臨職粉砕」「ロツクアウト粉砕」などのシユプレヒコールをあげながら、前記藤田において赤色の全共闘の旗を掲げ、デモ隊列で同大学正門へ至り、もつて故なく東京大学学長加藤一郎管理にかかる前記本郷構内に侵入した。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の一の所為は刑法第二〇八条ノ二第一項後段に、判示第一の二の所為は包括して同法第六二条第一項、第九五条第一項に、判示第二の所為は同法第六〇条、第一三〇条前段に各該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、判示第一の二の罪は従犯であるから同法第六三条、第六八条第三号により法律上の減軽をし、以上は同法第四五条前段の併合罪なので、同法第四七条本文、第一〇条により最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役二年に処し、同法第二一条を適用して未決勾留日数中三〇〇日を右刑に算入し、情状により同法第二五条第一項を適用してこの裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人の負担とする。

(兇器準備結集罪の成立および公務執行妨害罪の正犯をいずれも認めなかつた理由)

一、判示第一の各事実について掲げた各証拠を総合すると、判示第一の各事実の外、次の事実をも認めることができる。

東京大学においては、安田講堂、工学部列品館等を封鎖占拠中の学生らを排除するため、昭和四四年一月一八日本郷構内に機動隊の出動を求め、同日中に安田講堂を除く建物に対する封鎖は解除されるに至つたが、これに対し東京大学への機動隊の導入に抗議し、右安田講堂を封鎖占拠中の学生らを支援する目的で、翌一九日午前一〇時より判示中央大学中庭で東大闘争支援統一集会(以下単に「統一集会」と略称する。)が開催されることとなつた(なお、証拠上開催者は明らかでなく、また、後に開催時刻が午前一一時に繰り下げられた。)。

安保共闘に参加ないしは同調する安藤明与志、五十嵐健二、相川昭徳、酒井健雄外二〇数名は、同月一八日夜、同都千代田区神田所在の日本大学理工学部において集会を開き、東大闘争は全国学園闘争、ひいては日本における階級闘争の天王山であるから、右闘争に勝利すべく他大学と連帯し東大を解放するために、翌日開かれる予定の統一集会に参加し、集会終了後の集団行動の際、警備警察官らに対し過激な行為に出るべく、その行動のため、角材を携帯した行動隊を作ることが決定され、同所に角材、鉄パイプが用意され、翌一九日朝、前記安藤らは、同所で予め用意された角材、鉄パイプ等を携え、中大中庭に赴いた。

又芝浦工業大学においても、全学闘争委員会に参加ないしは同調する学生らにおいて、同月一八日夜統一集会参加者が募られ、判示星野光一朗ら約四〇名が参加することとなり、翌一九日朝芝浦工業大学出発前に、集団行動の警備警察官らに対し過激な行動に出る可能性のあることを予想して、逮捕時の注意を記載したビラおよびお茶の水周辺の略図を記した紙片が配布された後、中大中庭に赴いた。

このようにして、同日午前一〇時ころより、中大中庭には統一集会に参加するため各大学全共闘、反代々木系各セクトに所属ないしは同調する学生労働者らが各グループごとに集結するに至つた。

統一集会に先立ち、同日午前一一時ころより同所で判示第一の一の各大学全共闘、各セクト別の集会(以下「個別集会」という。)が開かれ、各大学全共闘、セクトごとに各リーダーの東大闘争の意義などに関するアジ演説がなされ、グループごとの意思統一が計られるに至つた。

反戦青年委員会を除く各大学全共闘セクトの学生らに対しては、それぞれ個別集会の前又は個別集会中に多数の角材、鉄パイプ等が配布され、あるいは個別集会参加者自ら角材、鉄パイプ等を携えて個別集会に加わつたりしたため、個別集会参加者の大半は、ヘルメツトを着用し、角材、鉄パイプ等を所持し、更にグループによつては、統一集会終了後予定されていたデモ行進において警察官と衝突した際に警察官よりガス銃(催涙弾)を発射される場合に備えて催涙防止のためのレモンの輪切りが順次配布され、芝工大全学闘においては、右レモンを包むためのガーゼも配布された。

この個別集会に引続き、前記のように統一集会が開かれ、中大中庭に面したバルコニー上において、まず氏名不詳の司会者より統一集会を開く旨の発言があり、次いで日大全共闘議長の秋田明大より判示第一の二の被告人の演説と同趣旨の演説および判示のような被告人の演説がなされ、被告人の演説の途中で氏名不詳者より「列品館でガス弾を頭に受けた学友が病院で死んだ。一分間黙祷しよう。」との旨の報告および提案がなされ、参加者全員が起立して黙祷をし、被告人の演説終了後、氏名不詳者よりデモ出発順序の発表があり、多数の角材、鉄パイプを携えた統一集会参加者による東大へ向けた東京都公安委員会の許可を受けない集団行進等(以下単に「無許可デモ」という。)が開始された。

その折、安保共闘芝工大全学闘は右の発表されたデモ出発順序に含まれていなかつたが、独自に出発し、芝工大全学闘は、途中デモ隊より離れて、南峻夫の指示により石塊等を拾つた後再びデモ隊に合流し、本郷方面へ向かつたが、本郷二丁目交差点付近において、デモ隊の先頭部分にいた中核派、革マル派等のグループは眼前に警察官が阻止線を張つているのを見て同所で立止り、間もなく反転して再びお茶の水方向に引返しはじめたが、そのころ本郷二丁目交差点に到着した安保共闘グループは一旦停止することもなくそのまま阻止線へ突つ込み、同所付近で逡巡していた芝工大全学闘グループもそれにつられて阻止線へ突つ込み、警察官と衝突し、判示第一の二のように右両グループのうち星野光一朗らが警察官らに対し投石、角材による殴打等の暴行を加えるに至つた。

二、ところで、被告人が自ら又は他の者と共に統一集会を開催したことを認めるに足りる証拠は何ら存しないし、被告人の行為としては統一集会における演説行為が認められるに過ぎない。

弁護人は、統一集会参加者に集団としての同質性のないこと、芝工大および安保共闘以外のグループは本郷二丁目交差点で反転していること、更には右交差点に向かわなかつたグループも存したこと、被告人の演説の内容の抽象性からして、統一集会参加者には共同加害目的が何ら存しなかつた旨主張する。

しかしながら、前示認定の経過に徴すると、少なくとも安保共闘および芝工大全学闘グループにおいては集団行動の際警備警察官に対し共同して過激行動に出ることを予期しており、既に個別集会の時点において、各グループごとに角材等が配布され、リーダーのアジ演説によりグループごとの意思の統一が計られたこと、個別集会および統一集会の両集会を通じていずれも統一集会後の行動について具体的な行動方針の提起がなされてはいないものの(デモ行進の出発順序の発表に際しても、デモの行先については何ら触れられていない。)、統一集会終了後集会参加者の大半による東大へ向けてのデモ行進がなされたことからも明らかなように、集会参加者の大半は暗黙のうちに統一集会後東大へ向けてデモ行進を行なうことを当然の成行きと理解していたものと推認されること、個別集会は中大中庭でほぼ一斉にはじめられたものであり、個別集会参加者は容易に他グループの状況を認識することができたこと、もともと統一集会の目的は東大闘争支援―安田講堂を封鎖占拠中の学生らに対する支援―にあつたこと、当時東大へ向けての無許可デモに際しては警察官による規制が当然予想されたこと、集会参加者の多くは東大構内への機動隊導入に対し強い抗議の意思を抱いていたものと推認されること等の事実を総合すると、個別集会参加者は、各自が手ずから警察官に対し強い危害を加える意思を有していたか否かはさておき、統一集会終了後のデモ行進に際し、東京都公安委員会の許可を受けていないため、警察官による規制が当然予想され、これに対して投石、角材等による殴打等の実力行使に出るセクトないしグループが存することの認識、認容が暗黙のうちに存したものと認められる。なるほど、大内尚武の昭和四四年一月三〇日付検察官に対する供述調書謄本によれば、芝工大グループが石を拾つた際革マル派のデモ隊員より今日は革マル派は石を使わないと云われたこと、反戦青年委員会グループは角材などの兇器と目される物を所持していなかつたこと、更には中核派、革マル派等のデモ隊は本郷二丁目交差点付近で反転していること、日大全共闘などは、本郷二丁目交差点まで赴いたものとは証拠上認め難いことに徴すると、反戦青年委員会グループはもちろんのこと、革マル派等においても、自ら積極的に角材等で警察官を殴打するなどの意図を有していなかつたものと認められるけれども、前記認定の統一集会前後の状況より明らかなように、これらのグループないしセクトも他グループないしセクトが同一の行動方針であるとの認識を有していた訳ではなく、むしろ他グループないしセクトが警察官と衝突することを十分に予見しながら、中大中庭より他グループないしセクトと共にデモ行進に出発していることにかんがみると、他グループないしセクトが警察官と衝突することを暗黙のうちに容認していたものと認められ、当時、統一集会の現場に臨み、そのうえ、演説行為に出た被告人においても同様であると認められる。即ち被告人は、既に兇器準備集合体を形成している者(自ら共同加害の目的をもつて兇器を準備し、あるいは準備あることを知つて集合し、又は、右集合体とともに兇器準備集合体を形成している者)に対し、右集合体が形成されていることを認識しながら演説行為に出ているというべきである。

三、以上のとおり、当時既に統一集会参加者による兇器準備集合体が成立しているとして、次に被告人の統一集会における前記演説行為がそれ以前に形成されていた右共同加害目的に対しどのような影響を与えたかを検討する。

判示第一に関して掲げた各証拠中には、併合前の兇器準備結集等被告事件の第一二回公判調書中の証人安藤明与志の供述記載部分のように、被告人の演説により自己の決意に何らの変化もなかつた旨の証拠も存するが、他方では、和田英雄および大内尚武の検察官に対する各供述調書謄本のように、被告人の演説によりはじめて自己自身が警察官の規制を突き破り東大へ行こうとの決意を抱くに至つたとする証拠も存するのであつて、しかも、被告人の演説の途中突発的になされた氏名不詳者の前記死亡報告により、統一集会参加者は一様に強い衝撃と機動隊に対する激しい怒りを感じたこと、これに引続き被告人はその前に比べ一層激越な調子で前示のような演説を続けたことが前掲各証拠により認められるのであつて、これらの事実に照らすと、被告人の演説により自己の決意に何らの変化も生じなかつた旨の証拠はすべて措信し難いものといわざるを得ない。従つて被告人の演説は内容的には何ら具体的な行動の指示を含むものではないが、そのなされた状況にかんがみると、統一集会参加者に対し影響の強弱はともかくとして、死亡報告後においては特にかなりの影響を与えたものと推認できるのであつて、前記認定のように既に個別集会の時点で共同加害目的を有していた者に対しその共同加害目的を更に一層強める役割を果たしたものと認められる。

四、そこで右被告人の共同加害目的を強めた行為が刑法第二〇八条ノ二第二項にいう「集合サセタ」行為に当たるかどうかを検討することとする。

もともと、刑法第二〇八条ノ二第二項所定の兇器準備結集罪は、同条第一項所定の兇器準備集合罪よりも法定刑が加重されていることにかんがみると、同罪の教唆犯的類型に尽きるものではなく、兇器準備集合体の形成につき主導的役割を果たした者についてのみ成立すると解するのが相当である。従つて既に集合状態にある者に対し新たに共同加害目的を付与した場合に本罪が成立することは疑いのないところであるが、一旦兇器準備集合体が成立した後そこで更に共同加害目的を保持強化させた場合にもすべて本罪が成立すると解することができるかどうかは問題の存するところである。確かに、兇器準備集合罪は判例上継続犯と解せられているので、共同加害目的を保持強化させる行為がすべて本罪に当たらないとまではいえないとしても、他方、教唆犯および幇助犯の性格および可罰性の程度と対照考察すると、共同加害目的を保持強化させる行為の中でも、共同加害目的を飛躍的に強化させ、新たに共同加害目的を付与したのと同視することができる程度に至つた場合で、しかも右集合体の形成に主導的役割を果たした場合にはじめて本罪が成立するものと解するのが相当である。

そこで本件に即して考えると、被告人の統一集会における演説は、途中に氏名不詳者による死亡報告が挾まれたため、これを聞いた統一集会参加者に対し警察官に対する怒りの念をかりたて、機動隊に対する憎しみを募らせたものではあるが、他面、その演説は被告人の前になされた秋田明大の演説とその内容において同趣旨のものであり、又統一集会前の個別集会における各セクトリーダーによるアジ演説と内容的にさほど差異があつたものとはいえないこと、統一集会はその政治的主張を必ずしも同じくしない各セクト、各大学全共闘が参加した集会であつて、同一セクトに属する者によるもののように強い上命下服の関係に立つリーダーと参加者があつたとは認められないことをも併せ考えると、統一集会開始の前後において集会参加者の共同加害目的が飛躍的に強化させられたものとは認められないから、被告人の判示演説をして集会参加者の共同加害目的を飛躍的に強化せしめたものとすることはできず、結局被告人に兇器準備結集罪の罪責を負わせることはできない(なお、和田英雄および大内尚武の検察官に対する各供述調書謄本中には、和田、大内は統一集会における被告人らの演説によりはじめて統一集会参加者全体に熱気が高まり、自己自身も皆と共に闘う気になつた旨の記載も存するが、前記認定のように、同人らの属する芝工大グループは既に個別集会の時点で角材を所持し、レモン、ガーゼも配られていること、芝工大を出発した時点において逮捕時の注意を記載したビラ等が配布されていることなど、同人らが統一集会に参加するに至つた経緯に照らすと、右記載部分は措信できないものというべく、その趣旨は被告人らの統一集会における演説により統一集会参加者の有する共同加害目的が強化されたとするにあるものと解するのが相当である)。

五、なお、前記のとおり、被告人について判示第一の一の兇器準備集合罪の事実はこれを認めるに十分であるところ、これを認定することは、被告人に対する兇器準備結集の訴因の縮小認定に当たることが明らかであり、また、右訴因に関する争点につき攻撃防禦は十分尽くされており、訴因変更の手続をとらなくても被告人の防禦に実質的な不利益を来たすものではないので、訴因変更の必要はないものと考える。

六、次に検察官は、被告人を公務執行妨害の共謀共同正犯に当たる旨主張するので、この点につき判断する。

前記認定のように被告人の統一集会における演説により統一集会参加者に対し、共同加害目的―本件においては、そこには概括的に特定された範囲で警備中の警察官に対する暴行の犯意も包摂されるものと認められる―が新たに付与されることなく、単にそれが保持強化されたに過ぎないのであつて、被告人の所為が公務執行妨害の共謀共同正犯かそれとも幇助犯にあたるかの問題が生ずる。

ところで、共謀共同正犯が成立するためには、まず、その主観的側面として、二人以上の者が、特定の犯罪を行なうため、共同意思の下に一体となつて、互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をすることを要するものと解すべきところ、被告人は右演説終了後統一集会参加者と共に無許可デモ行進に参加したと認めるに足りる証拠は何ら存しないのであつて、被告人は、単に集会で前記演説をしたにとどまり、犯行現場にも赴いていないのであつて、その演説行為は一種の激励行為(即ち精神的幇助の一形態)に過ぎず、前記のような謀議を行なつたと認めるには証拠上到底十分とはいえず、被告人には共同正犯の責任を問うことはできないが、被告人の右行為の結果判示第一の二のように安藤らは公務執行妨害の所為に出たものである以上、公務執行妨害の幇助犯にあたると解するのが相当である。

(弁護人の公訴棄却の申立について)

弁護人の申立は、本件兇器準備結集、公務執行妨害の訴因につき刑事訴訟法第三三九条第一項第二号に該当するばかりでなく、本件公訴の提起は、もつぱら東大闘争の弾圧を目的としたものであり、公訴権の濫用として同法第三三八条第四号に該当するので公訴棄却を求めるというものであるが、被告人に対する昭和四四年九月二七日付起訴状に記載された公訴事実自体に徴すると、本件が刑事訴訟法第三三九条第一項第二号に該当しないことは明らかであり、又検察官が客観的には犯罪の充分な嫌疑がないのにもつぱら東大闘争弾圧を目的として本件公訴を提起したことと認めるに足りる証拠は何ら存しないから、公訴権の濫用とは到底解されず、結局弁護人の公訴棄却の申立はいずれも採用することができない。

(建造物侵入罪につき可罰的違法性が存しないとの弁護人の主張につき)

弁護人は、本件建造物侵入行為は、その目的が正当であり、その行為態様は相当性を有し、さらに右行為によつて侵害された法益は不存在もしくは極めて軽微であつて可罰的違法性が存在しないと主張するが、なるほど東京大学における臨職問題に携つてきた被告人としては、大学側のとつた本件立入禁止措置を臨職闘争に対する弾圧と受け止め、それに対する抗議として本件犯行に及んだものであり、当時の東京大学における臨時職員の地位の不安定性、労働条件の劣悪性等に徴すると、その動機において酌量すべき点も存するものと認められるが、本件犯行の態様にかんがみると、住居の平穏を害するに足りるものであることは明らかであり、目的の正当性の点はさておき、その手段の相当性があるものとは到底解されないのであつて、被告人の本件判示第二の所為が可罰的違法性を欠くものとはいえず、弁護人の右主張も採用することができない。

よつて主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例